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【第5話】新たなスタートライン

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再び異動

仕事に行くことをやめた僕は、自宅で妻と子どもと穏やかな時間を過ごしていた。

今思えば、妻には簡単に事情を話した程度で、詳しくは話していなかったと思う。

それでも、妻の方から仕事について聞いてくることは一切なかった。


それから数日が経ったある日、消防署から電話がきた。

電話の相手は出張所の所長、数少ない信頼できる上司だ。

「別の部署に異動が決まった」

そう電話口で伝えられた。

人間関係のトラブルが起きれば、渦中のどちらかが異動するのは典型的なパターンだ。

今回もそうなるだろうと思っていたし、僕自身が強く望んでいることだった。

異動先を聞くと予想外の答えが返ってきたが、いまさら希望を言えるような立場ではない。

また初めての部署への異動とのことだった。

ここまでくると慣れたものだが、多少の不安はある。

とはいえ、あの部隊に戻ることを考えれば、異動できるのならどこだっていい。

もうあんな思いをしながら働くのだけはごめんだ。

所長には、これまでお世話になった感謝の意を伝え、異動が決まったことを了承した。

約2週間の出勤拒否を経て、新たな職場に出勤した。

今回の職場は出張所ではなく、その地域の出張所を取りまとめている消防署。

その中の火災原因を調査する部署が新たな異動先だった。

そこは、火事の原因を調査し、究明する部署。

火事によっては、その調査結果がもたらす社会的影響はとても大きい。


ひとたび火事が発生すれば、たくさんの消防車が出動し消火する。

消防隊の仕事は鎮火とともに、おおむね終了することがほとんどだ。

しかし、新たについた部署では、そこから仕事が始まる。


具体的には、焼け残ったものを見て炎の強さや方向などを推測し、手作業で火事の原因となったものを探し出すのだ。

どれ一つ取っても同じ火事はない。

経験と知識がものをいう作業だ。


もちろん、そのどちらも僕はもっていない。


それから、僕は指揮隊という部隊につくことになった。

火災には出動するのだが、消火作業をすることはない。

火事の状況を見ながら、作戦を立て消火活動している消防隊に指示を出す部隊だ。

経験豊富なベテラン職員ばかり。同じ部隊には上司しかいない。


「大丈夫か・・?」と不安は大きくなるが僕に選択肢はない。

この異動で、たくさんの人たちに迷惑をかけてしまったという思いがあった。

僕にできるのは、一日でも早く一人前の仕事ができるようになること。

そのために、今できることを精一杯やるだけだ。


***


久しぶりに出勤した当直の夜、上司に呼び出された。

仕事を休んでいたことについてかと思ったが、上司の口から出た言葉は少し違っていた。

それは異動の経緯についてだった。

今回の異動で、トラブルの渦中の人物(僕)を呼ぶことに懐疑的な人もいたらしい。

そりゃそうだ、と自分のことながら思う。

しかし、その一方で「呼ぼう!」と言って、まわりの人たちを説得した人物がいたらしい。

そういったことがあり、この異動が決まったとのことだった。


たしかに、僕はその説得してくれたという人物を知っていた。

これまで、直接関わることは少なかったが、初めて出会ったのは5〜6年前だ。


当時、僕は日勤、その人物は他の部署の責任者だった。

部署も階級も大きく違うこともあり、接点はあまりなかった。

その地域で働く職員だけでも数百人はいる。

話したことのない職員がたくさんいても不思議じゃないのだ。


しかし、全然違う部署だったにも関わらず、僕が日勤で四苦八苦している姿を見ていてくれていたらしい。

「あいつを呼びたい。こんなことで腐るやつじゃない」と説得されたと、その上司は言っていた。

その僕を呼んでくれた人物は管理職で当直の最高責任者となっていた。

つまり、消防隊や救急隊、救助隊の実質上のボスだ。


もしかすると、僕の不安を見越しての方便だったのかもしれない。

もし仮にそうだとしても、やる気が出ないわけがない。

心の底から感謝をした。

天職

異動した年は、とても火事の多い一年だった。

勝手もよく分からないまま、現場で仕事を覚える日々が続く。

緊張の日々は続いたが、短期間で経験を積むことができたという点では良かったのかもしれない。


この火災の原因調査をする部署には、もうひとつ大きな仕事がある。

それは火事の原因をまとめた報告書をつくることだ。

現場で調査した内容を元に、火事になった経緯や原因を報告書としてまとめるのだ。

火事の規模にもよるが、100ページを超えることなんてザラ。

完成までに数ヶ月以上かかることがほとんどだ。

ほとんどの職員のなかでは、やりたくない仕事ベスト3に入っていると思う。


異動して数ヶ月が経ったころ、報告書を作りながらあることに気がついた。

それは、消防署にあるいくつもの仕事への見え方が変わったことだ。


これまで僕は消防隊、救急隊、火災予防といった形でいくつもの部署で仕事をしてきた。

一つのことを極める、というよりは浅く広く仕事をしてきたと言えるだろう。

もちろん同じ消防署の仕事なので関連性はある。

だが、それぞれの仕事内容の専門性の高さから、どうしても”違う畑の仕事”という印象を拭い去ることはできなかった。

これが、火災調査という視点から見たときには感じ方が違うことに気がついたのだ。


これまで、僕は異動のたびにバラバラの部署で仕事をしてきたと思っていた。

しかし、そこで経験してきた多くのことが、今では火災調査の仕事をする上でとても役に立っていた。

それまで点だと思っていたものは全てつながっていたのだと、実感を伴って理解できた瞬間だった。


同時に、ここが自分にとって能力を最大限発揮することができる場所なんじゃないかと感じた。


思い返してみると、昔から本を読んだり、文章を書くことが嫌いじゃなかった。

そういった影響もあったと思う。


たくさんの小難しい理屈を並べながら、一つの作品を作り上げる。

そんな報告書を書く作業がすごく楽しかった。


いくつもの部署を渡ってきた経験があるからこそ強く感じた。

見つけたのだ、天職を。

生き方を決めた言葉

火災調査の業務についてから2年が経った。

いくつもの火事を経験し、一人前にはほど遠いまでもある程度の仕事はできるようになっていた。

「一人前までいったい何年かかるんだ・・・」と思わないこともないが、やればやるほどその奥深さを感じてしまうのだから仕方ない。


そんなある日、先輩から仕事終わりに飲みに誘われた。

誘われたというと聞こえは穏やかだが、実際はほぼ強制

とはいえ、酒の席は好きなのでハナから断るつもりもなく、むしろウキウキしながら店に向かった。


店につくと、先客がいた。

その中に僕がよく知っている、でもとても久しぶりに会う人物がいた。

それは、当時僕のことを火災調査に呼んでくれた上司だった。

彼は僕を呼んでくれた3ヶ月後に異動になっていた。

管理職の異動のサイクルは早いのだ。

会うのは、実に約1年半振りだった。


今の僕があるのは、この人のおかげだという気持ちがずっと胸の中にあった。

あれから、期待に答えたくて頑張った。

今では一度失いかけた自信も取り戻し、仕事が本当に楽しいと思えるようになっていた。

だから、改めてちゃんとお礼の気持を伝えようと思った。

1時間ほど経って少し場も温まってきたころ、元上司に感謝の気持ちを伝えた。

「今の僕があるのはおかげです。あのとき呼んでくれなかったら、そのまま腐っていたかもしれません」

といった感じの内容だったと思う。

すると、それまで酔っ払って上機嫌だった元上司はまっすぐに僕の目を見て言った。

「何年か前、お前自身が希望しない部署だったときに、一生懸命に頑張っているお前の姿を見ていた。だから、どこでも頑張れるやつだと知っていた。だから、お前の能力を一番発揮できそうな場所に呼んだだけ。たまたまこんな形で呼ぶことになってしまったけど、ずっと呼ぶ機会を探していた。だから、助けたのは俺じゃない。昔のお前自身が助けに来たんだよ。」

僕は涙を堪えきれずうつ向いたまま、何度も感謝の気持ちを伝えた。


遠くからでも気にかけてくれている人がいたことが嬉しかった。

頑張りを認められたことが嬉しかった。

そして、僕もいつか誰かが困っているときに手を差し伸べられるような、そんな人間になりたいと思った。


「助けたのは俺じゃない。昔のお前自身が助けに来たんだよ。」


この言葉は僕の人生にとって、とても大きな影響を持つことになった。

この日以来、さらに仕事に打ち込んだ。

 

***

 

それから約3年が経った。

異動の時期が訪れるたびに新しい仲間も増え、気がつくと今いる消防署の中では古株のメンバーとなっていた。

仕事も面白い。覚えるほど楽しくなっていった。

 

だが、そんなある日、消防署を退職することを決めた。

これは何年も前からずっと考えていたことだった。

きっかけを与えてくれたのは3歳の息子。

食事中の何気ない会話で、地元の仙台に帰ることを決めた。

これまで迷いながら時間だけが過ぎていたが、今がそのタイミングだと思ったのだ。

これまで、何度も辞めたいと思ったことはあった。

でも、そのたびに「辛いときに辞めたら絶対に後悔する」と思い、周りに助けてもらいながらなんとか乗り越えてきた。

でも、今は違った。


今までで一番おもしろい、天職とも思える仕事にもつくことができた。

これは、僕のわがままだが、「仕事が楽しい時期だからこそ、辞めるなら今にしたい」と思ったのだ。


そして退職予定日の1年前、上司に退職を伝えた。

その後、タイミングを見計らいながら職員一人ひとりに退職することを伝えた。

感謝の気持ちを添えて。

新たなスタートライン

最後の当直日、みんなの前で最後の挨拶をした。


管理職も含め、恐らくほぼ全職員が自分の仕事を止め、挨拶を聞きに来てくれた。

長いようで短かったそれまでのことを振り返りながら、少しでもたくさんの気持ちが伝わるような言葉を探しながら一生懸命、感謝の気持ちを伝えた。

不思議と涙はでなかった。

それ以上に、やりきったという想いが強かった。


もう火事に行くこともない。

救急車を運転することもない。

同じ釜のメシを食べた仲間と一緒に仕事をすることもないだろう。

そう思うと、寂しさはある。


だが、この先、消防を辞めても”人のためにはたらくこと”をやめるつもりはない。

だから、向いている方向は同じ。

アプローチが変わるだけなのだ。


今じゃなければ、できないことがある。

それを実現するために仙台に帰る。

そのために起業することを決めた。


そして、消防士になって15年目の2月1日

33歳になった僕はまた歩み始めた。

これまでとは違う道を、自分の足で。

あとがき

これで、”起業までの道のり”はおしまいです。

この続きがまさに”今”だからです。

この先が気になるという方は、時々このブログに訪れてもらえると嬉しいです^^

また、読みやすかったよーとか、意味不明だし、とか感想をいただけると、今後記事を書くモチベーションになります^^

トモ
トモ
最後までお読みいただきありがとうございましたー!

 

2 件のコメント

  • こんばんわ、18歳から東京で消防士をしている現在26歳の現役の消防士です。ブログ読ませていただきました。

    【消防士から起業するまで】を読んで共感することが沢山あり、とても楽しく、また消防の意味のない伝統というか、無くならないパワハラにとても憤りを覚えました。また、消防士からこのように起業し、今自由な生活を送っている人がいるのはとても嬉しく思いましたし、自分の希望にもなりました。

    このブログを読むきっかけになったのは今、働いている職場や消防士としての働き方に疑問があって、ゆくゆくは退職し独立したいと思っているからです。
    今現在は投資と支出の削減で1000万程は貯まりましたが、まだまだ退職には程遠い金額です。
    やはり稼ぐ力が弱いため、いくら支出を削減しても限界があることに気づきました。

    消防署といえば2021年になってハンコレスがなくならず、朝出勤したら押印する、勤務についたら押印する、休暇をもらうのにも管理職までハンコリレーをする、残業の申告はなぜか自己申告といった無意味な事で溢れかえっています。
    職場にはタイムレコーダーを導入して、残業している人にはその分の給与を公正に支払う。Googleカレンダーで休みを共有してしまえば管理職の人間もすぐ分かる。決裁は全てメールで回してしまう。

    全て職員懇談会に挙げたのですが、全て会議の議題に出される前に却下されました。

    また私は救命士の資格を取得したのですが、救急車に乗せてもらっていません。

    中隊長には髪の毛が長いから切れとしょっちゅう言われます。若いやつはなってない。みたいこともよく言われます。
    私は髪の毛が長かろうが、訓練も事務処理も手を抜きませんし、最年少で救命士の資格も取りました。
    髪の毛が長いことが何に関係あるのでしょうか?

    正直最近は早く辞めてやろうとしか思っていません。

    なにか私にアドバイス頂けないでしょうか?
    ほんとに漠然な質問ですいません。
    退職に際しても、消防のことに関してもなんでもいいのでよろしくお願いします。

    • モリオカさん、はじめまして^^

      お返事遅くなってしまいスミマセンでしたー!
      記事をお読みいただきありがとうございます!

      東京で働かれてるんですね^^
      モリオカさんのお話をうかがって衝撃を受けました。

      僕は地方都市で働いてたので「東京はもっと進んでるんだろうなぁ」とずっと思っていました。
      現実はどこも大して変わらないかもしれませんね。笑

      どんなに画期的だったり、みんなのためになるようなことでも、そういった意見を通すのは難しいですよね。
      そもそも聞く耳すら持ってもらえないっていう^^;

      僕は”今の違和感をずっと持ち続けること”が大切かなと思います。
      「組織に染まりきらないこと」ともいえますね^^

      疑問を感じながら働き続けるのは、苦しいかもしれません。
      でも、染まっちゃえばこれまで自分がこれまで「なんだこいつ!(大体の場合は先輩w)」と思ってきた人たちと同じような道をたどる可能性が高いです。
      きっと彼らだって入った頃は似たような疑問や憤りを感じていたはずですから^^;
      慣れちゃった方がラクなので、がんばって消防の仕事に適応しようとした結果が”今”なんじゃないかなと思います。

      今はみんなの耳に届かなくても、モリオカさんの考え方を面白いと思ってくれる人は必ずどこかにいます。
      まだ出会ってないだけかもしれません。

      意見を懇談会に上げたり、1000万を貯めたりとモリオカさんは行動力がすごいと思います^^

      だからこそ、消防の外に自分の世界を広げてみると、また違った視点を持てるんじゃないかなと思います。
      たとえば、働きながら学校に通って資格を取ったり、退職するために勉強したり、スポーツを始めたり、といった感じです。

      せっかく貯めたお金を使うことに戸惑いを感じる部分もあるかもしれませんが、自己成長のために”未来の自分への投資”することで、将来的にさらに大きくなって返ってきます(もちろん無駄遣いはダメです^^;)

      オススメは「消防を辞めても生活できるけど、自分がやりたいから消防をやってる」という状態を目指すことです。
      こうなってしまえば、気持ちがめちゃくちゃラクになるので仕事が楽しくなります。
      もちろん僕の経験談です。笑

      仕事を続けるにせよ、辞めるにせよ、どっちがベストかはわかりません。
      だからこそ、いろんなことを試しているうちに「自分にとってのベストな選択」が見つかるはずです。
      それに意外な形で”人生を変える出会い”があるかもしれません。

      今の疑問を忘れずに牙を研ぎ続けてもらえたら嬉しいです^^

      もしも今、「でも何をすれば・・」という感じであれば、僕が退職を決めたときに観たセミナー動画をためしに観てみてください^^
      どのみち無料で見れるので興味が持てなければ、閉じてもらえればオッケーです。笑
      ちなみに、ここのスクールで勉強している方の中には公務員の方も結構います^^

      長文になってしまいました^^;

      えらそうに書いてしまいましたが、僕もまだまだ走り始めたばかりです^^
      僕でよければいつでも相談に乗るので、また気軽にコメントやメールを送ってもらえたら思います^^

      一緒にがんばりましょうねー^^
      ではー!

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